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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)5694号 判決 1954年2月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山崎一男の上告趣意第一点について。

所論福岡高等裁判所の判例が、所論摘示のごとく判示し、また、原判決が所論摘示のごとく判示したことは所論のとおりである。従って、原判決は、所論福岡高等裁判所の判例と相反する判断をしたものといわなければならない。しかし、判決の証拠となった公判廷における証人の証言中に伝聞証拠を含むからといって、該部分につき特に排除決定をするか又は証拠として引用するに当り該部分を除外する旨説示しなければ常に該伝聞証拠をも含む供述全般を証拠としたものと断定することは失当である。かかる場合に引用した他の証拠その他諸般の事情に照し該伝聞の部分を除いた他の部分を証拠に引用したものと解することを妨げるものではない。本件のように、所論の伝聞部分を除いた他の供述部分とその他の証拠とを綜合して、判示事実を認定するに充分であるような場合には、特に排除決定又は除外する旨の説示がなくとも、むしろ該伝聞部分を除いた供述だけを証拠とした趣旨と解するのが相当である。それ故、前記福岡高等裁判所の判例を変更して原判決を維持すべきものとする。されば、所論は、採用できない。

同第二点は、判例違反をいうが、所論判例は、いずれも、本件に適切でなく、結局事実誤認又は単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点は、判例違反をいうが、所論判例は本件に適切でなく、所論は結局原審の証拠の判断を非難するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、仮りに、所論供述調書を本件犯罪事実を認める情況証拠たる価値ある旨の原判決の判断(情況証拠であるとの説示は必ずしも明白ではないが、本件の証拠となっている被告人の各供述調書における自白を補強すべき証拠との趣旨に解することができる。)が失当であるとしても、該証拠を除外しても判示事実認定を是認することができるから、原判決に影響を及ぼすべき法令違反があるともいえない。

同第四点は、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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